【論文紹介】市販薬の過剰摂取を行う若者に対するピアサポートの現状と課題
市販薬オーバードーズが広がる中、当事者と同世代のピアサポーターが「友達のような関係」で寄り添い続けています。支援者自身が抱える限界やリスクから必要な連携体制や政策的支援を提言した論文の解説記事です。

タイトル:
市販薬オーバードーズ(OD)を繰り返す若者たち。「ピアサポート」の可能性と、現場が抱える課題
本文:
はじめに:なぜ、若者は薬を大量に飲むのか?
近年、ドラッグストアで買える咳止めや痛み止めを大量に摂取する「市販薬オーバードーズ(OD)」が急増し、ニュースでも「トー横」などの言葉とともに取り上げられています。
「どうしてそんな危険なことを?」と大人は首をかしげがちですが、当事者の若者にとっては、それが生きづらさから一時的に逃れるための手段であり、SNSで同じ苦しみを共有する仲間とつながる「共通言語」やファッションになっている現状があります。
今回私たちは、こうした若者たちに夜の街へのアウトリーチやSNS相談、居場所活動で寄り添い続ける「ピアサポーター(同世代の支援者)」へのインタビューを行い、現場の実態と課題を調査しました。
調査から見えてきた「3つのリアル」
実際に街頭アウトリーチやSNS相談を行っている20〜30代のピアサポーター5名の語りから、以下の実態が浮き彫りになりました。
孤立とSNS、そして手軽さ
若者たちは、学校や家庭でのリアルな人間関係で孤立しています。その寂しさを埋めるようにSNSでつながり、そこでODが「つらい時の当たり前の対処法」として共有されています。手軽に薬が手に入り、SNSで共感も得られる。そのサイクルがODを加速させていました。
「支援」ではなく「友達」のように
ピアサポーターたちは、若者とつながるために独自の工夫を凝らしていました。
あえて「タメ語」を使って距離を縮めたり、「支援」や「相談」という堅苦しい言葉は使いません。メイクを当事者たちの流行(地雷系など)に寄せたり、「ネイル可愛いね」と褒めるところから会話を始めたり…。
「薬を飲んでいてもいいから、生きていてほしい」。そんな、敷居を低くした(Low-threshold)関わりこそが、彼らが大人とつながる最初の入口になっていました。
支える側の「危うさ」と限界
一方で、親身に寄り添うピアサポーター自身も、若者の重い現実に引きずられ、無力感やトラウマ(代理受傷)に苦しんでいる実態も明らかになりました。
「友達」のような近い距離感だからこそ心を開いてもらえる反面、距離感が保てずに巻き込まれてしまうリスクもあります。
現場へのメッセージ:支援者を一人にしない
ピアサポートは、専門職にはできない「温かいつながり」を作れる素晴らしい力を持っています。しかし、彼女たちの善意や熱意だけに頼るのは限界です。
「ここまではやるけど、ここからは専門家」という境界線(ルール)を作る
困ったときにすぐに医療や行政につなげるルートを確保する
支援者が悩みを吐き出せる場(スーパービジョン)を作る
若者を守るためには、まず、その若者を最前線で支えているピアサポーターたちを、私たち専門職や社会がしっかりとバックアップする仕組みが必要です。
これからの具体的なアクション:実践と政策への提言
現場での統合的な支援を実現するために、私たちは以下の具体的な仕組みづくりを提案します。
【医療・公衆衛生の現場担当者へ】
ピアサポーターと連携する専任の担当者を配置し、以下の3つを検討してください。
(a) 「即日」の相談体制: 危機的な状況の時、すぐに専門家のアドバイスが受けられるホットラインを用意すること。
(b) 拒まない受け入れ: 「ODを繰り返すから」という理由だけで排除せず、柔軟に紹介を受け入れる体制を作ること。
(c) 共に計画を作る: その場しのぎで終わらせず、退院後のケアや再発防止策を、ピアサポーターとともに伴走して考えること
【政策・システムを作るリーダーへ】
入り口を広げる: 若者が最初にアクセスする路上支援やSNS相談など、敷居の低い場所への金銭的・物理的支援を強化すること。
ルールの明確化: 警察、学校、病院など、関係機関ごとの役割分担や情報共有のルールをあらかじめ決めておくこと。
人を育てる資金: ピアサポーターが長く活動を続けられるよう、活動資金だけでなく、彼女たちを指導・監督(スーパービジョン)する体制にも予算をつけること。
【研究者へ】
こうした「専門家によるバックアップ」や「明確な連携ルール」があることで、実際にケアの連携がスムーズになるか、ODの再発が減るか、そして何より支援者自身が元気に活動を続けられるか。その効果を検証する実践的な研究が、今まさに求められています。
この研究が、現場で奮闘する支援者たちを守るための、議論のきっかけになればと願っています。
(解説:氏原 将奈・淑徳大学)
▼ 論文の詳細はこちら
Ujihara, M., & Iwasawa, A. (2026). Current status and challenges of peer support for young people who engage in over-the-counter medicine overdose in Japan: Practice-oriented perspectives. Global Health & Medicine. Advance online publication.





