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【論文紹介】行政職員を対象としたゲートキーパー養成プログラムの効果検証に関する介入研究

タイトル:「Evaluating the Effectiveness of Gatekeeper Training for Municipal Employees: A Preliminary Study on Self-Efficacy, Knowledge, and Behavioral Change」

(日本語訳)自治体職員を対象としたゲートキーパー研修の有効性の評価:自己効力感、知識、および行動変容に関する予備的研究 

研究背景・目的

 自殺対策におけるゲートキーパー(以下、GK)養成は、自殺予防活動における最善の対策の一つと認識されています(WHO, 2014)。

 そのような中で、日本の自殺総合対策大綱の重点施策の一つにも「自殺対策に係る人材の確保、養成及び資質の向上を図る」ことが明示されています(厚生労働省, 2022)。

 本論文に記載されているGK養成講座は、A地域役場の令和6年度地域自殺対策事業の一環として実施したものです。地域自殺対策は、5年度計画となっており、本研究で受講できなかった職員含め、A地域の全ての行政職員が、2029年度までにGK養成研修を受講予定です。

 行政職員は、手続きや相談の窓口で、生活上の困りごとを抱えた方と接する機会が多くあります。そこで本研究では、GK研修を受講した職員が「日常の困りごとに対応できそうだ」という自信、自殺予防の基本的な知識、実際の声かけ・傾聴・支援先につなぐ行動にどのような変化をもたらすかを確認しました。


研修(ゲートキーパー養成講座)の内容

 本調査で評価したゲートキーパー養成講座は、約75分の研修として実施されました。研修の目的は、職員の皆さまが、困りごとを抱えた住民の方に気づき、声をかけ、話を聴き、必要に応じて支援先につなぐことができるようになることです。


研修の主な内容は、以下のとおりです。

 ・自殺やメンタルヘルスに関する全国および地域の現状

 ・困りごとを抱えた人の心理状態について

 ・ゲートキーパーとして大切な姿勢や考え方

 ・厚生労働省作成の動画視聴(声かけ・対応の具体例)

 ・良い対応/望ましくない対応の具体例を用いた解説

 ・支援機関や相談先の紹介


 動画や具体例を通して、「専門家でなくてもできる支援」や、

「一人で抱え込まずにつなぐことの大切さ」を重視した構成となっています。


評価の方法

 研修の効果を確認するため、アンケートを用いて、主に次の3点について調査しました。


(1) 対応できそうだという自信(自己効力感)

 「自殺」は命が関わる問題であり、一般的にかかわりを避けられやすいとされています。

 そのため、自殺予防活動は、完璧なスキルを持たなくとも関わろうとする動機付け(自己効力感 ≒ 自信)が重要です。自殺予防に関わる自己効力感がゲートキーパー養成講座を受講することによって変化するかを確認しました。

 測定項目には、自殺予防におけるゲートキーパー自己効力感尺度(GKSES)を使用しています(森田ら, 2015; Takahashi et al. 2021)。


(2) 自殺予防に関する基本的な知識

 自殺予防や相談対応に関する基本的な考え方について、4つの簡易的な設問で確認しました。

 この項目は、「厚生労働大臣 いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」が作成した、「ゲートキーパー」に関する自治体職員向けe-ラーニング教材を参考に構成しています。


(3) 実際の行動(声かけ・傾聴・つなぎ)

 研修後に、

 ・困っていそうな人に気づいたか

 ・声をかけたか

 ・話をじっくり聴いたか

 ・支援先につないだか

  といった行動があったかを確認しました。


主な結果

(1)「対応できそうだ」という自己効力感は大きく高まった


研修を受けた職員では、

 ・困っている人に適切な声かけができそう

 ・「死にたい」などの深刻な話題についても、落ち着いて話を聞けそう

 ・必要な支援先につなげそう

  といった点で、得点が大きく向上しました。


 自己効力感は、63点満点で評価していますが、研修を受けた職員では平均点が30点を超える水準まで上昇しました。

 また、この効果は研修直後だけでなく、2か月後も維持されていることが確認されました。


 つまり、本研修によって、ゲートキーパーとしての役割に対して、「自分にもできそう」という気持ちが高まり、その効果が一定期間続くことが示されました。


(2)ほぼ全ての回答者がそもそも既に基本的な知識を持っていました

 自殺予防に関する基本的な知識については、研修前の時点で多くの職員がすでに高い正答率でした。

 そのため、研修後に大きな変化は見られませんでした。


(3)実際の行動(声かけ・傾聴・つなぎ)には大きな差は見られませんでした

 研修後2か月の時点で、

 ・困っていそうな人に気づいた

 ・声をかけた

 ・話をじっくり聴いた

  と答えた職員は、全体の約3割でした。


一方で、

 ・支援機関などにつないだ

  と答えた職員は、約5%でした。


 研修を受けた職員と、まだ受けていない職員との間で、これらの行動に大きな差は見られませんでした。


総括

本調査から、次の点が明らかになりました。

 ・ゲートキーパー研修により、

 ➡ 困っている人に対応できそうだという「自己効力感」は大きく高まりました


 ・その効果は、研修後2か月経っても続いていました

 

 ・一方で、

 ➡ 実際の声かけや支援先につなぐ行動は、短期間では大きな変化としては表れませんでした


 行政職員の方は、日常業務の中で、必ずしも深刻な相談の場面に頻繁に遭遇するとは限りません。

 そのため、研修で自信が高まっても、行動として表れるまでには時間や機会が必要である可能性があります。

 今回の結果は、研修が「心構え」や「対応できそうという気持ち」を育てる点で有効であることを示唆しています。

 今後は、継続的な研修や情報共有を通じて、実際の支援行動につながりやすい環境づくりが重要と考えられます。


 【今後に向けて】

 A地域では、すべての職員が順次ゲートキーパー研修を受講する計画となっています。


今回の結果を踏まえ、

 ・職員一人ひとりの「気づき」と「声かけ」を支える

 ・相談しやすく、つなぎやすい職場・地域の体制づくりを進める

 ・継続的な研修やフォローアップを行う

  ことが、今後の地域自殺対策において重要であると考えられます。


▼ 論文の詳細はこちら

・Iwasawa A, Miyamoto S, Ujihara M. (2026). Evaluating the Effectiveness of Gatekeeper Training for Municipal Employees: A Preliminary Study on Self-Efficacy, Knowledge, and Behavioral Change. 

Journal of Suicidology 21(1) , 18-29.


・URL(雑誌): https://www.tsos.org.tw/media/6744

・URL(論文のみ):https://researchmap.jp/rcakita.iwasawa/published_papers/50548221


(解説:岩澤 敦史)


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